Distributorship Agreementは、メーカーが海外法人を販売店として指名し、自社の製品をその販売店を通して諸外国で流通させるための契約で、略してDSAと呼ばれています。
DSAには、当該販売店に対して、独占的な販売権を与えるものと、非独占的な販売権を与えるものの二種類があり、前者をExclusive Distributorship Agreementと呼び、後者をNon-Exclusive Distributorship Agreementと呼びます。
本記事では、メーカー側の立場から、Exclusive DSAとNon-Exclusive DSAのどちらがよいのか、について解説したます。
Exclusive DSAのメリット
メーカーとしては、指名した販売店の成績が芳しくない場合に、その販売店との契約を解除しなくとも、すぐに他の販売店を指名できるようNon-Exclusive DSAのほうが無難である、とよく言われます。逆に、販売店の立場からすれば、自国市場でその製品の販売を独占できるExclusiveの方が有利といえます。
しかし、Exclusive DSAには、メーカーにとっても数多くのメリットがあります。Exclusive DSAの場合、独占権を付与することの見返りとして、メーカーが販売店に対して様々な義務や制限を課すことが、一定程度、正当化されており、メーカーは販売店に自社製品の販売にコミットさせることができます。
たとえば、Exclusive DSAでは、販売店に対して、下記のような最低購入数量が定められている場合が多く、販売店は、毎年、メーカーと合意した一定数量の製品を購入できなければ契約違反となり、解除や債務不履行に基づく損害賠償請求をされてしまいます。
最低購入数量の条項例(サンプル)
During the term of this Agreement, Distributor shall make the minimum purchases of the Products from the Manufacturer set forth in Exhibit A (“Minimum Purchase Requirement”). If Distributor fails to meet the Minimum Purchase Requirement, the Manufacturer shall have the right to terminate this Agreement with no liability to the Distributor.
また、Exclusive DSAには、販売店が、競合品を取り扱うことを禁止する競業避止義務が定められることも多いです。
競業避止義務の条項例(サンプル)
The Distributor shall not sell or promote any products, which directly or indirectly compete with the Products.
もちろん、Non-Exclusive DSAにおいても、メーカーが販売店に対し、最低購入義務や競業避止義務の入った契約案を提示することは可能です。しかし、独占権を与えれていないにもかかわらず、そのような義務や拘束条件を課されるのは不公平であるとして、販売店から削除を求められる場合が多いでしょう。なお、競争避止義務条項は、各国の競争法に違反する場合がありますので、実際にそのような条件を設定する場合には、現地法律の確認が必要になります。
一国一販売店制のメリット
ExclusiveDSAのメーカーにとってのメリットは他にもあります。一国一販売店しか存在しないので、販売店の管理や教育にかかる手間や費用が削減されますし、自社の販売店同士が競争することによる製品価格の下落、ブランド価値の低下を防止することもできます。零細な販売店を多数指名するよりも、資金力や販売力が大きい一社に全面的に販売を委ねた方がマーケティングが上手くいく場合もありますよね。
代理店・販売店保護法には要注意
このようにExclusive DSAは、販売店側だけでなく、メーカー側にもメリットがある契約ですが、それでも、Non-Exclusive DSAが採用される場合多いのは、DSAは、一度、締結したらそう簡単には終了させられないという各メーカーの知識や過去の経験が反映されているものと思われます。特に、欧米、中東、中南米においては、販売店や代理店に対する法的保護が手厚く、販売店や代理店の成績が悪いからと言って簡単に契約を解除して別の販売店に変更することはできません。Exclusive DSAには、成績の振るわない販売店との契約をいつまでたっても終了させることができず、別の販売店を指名できない結果、当該国での販売が長期間にわたり停滞してしまうという大きなリスクがあるのです。Exclusive DSAを締結する場合には、どのような方法により契約を終了させることができるのか、事前に現地弁護士などに確認したうえで、契約書においても終了手段を明確かつ適切な形で定めておくことが肝心です。
契約書に関するご相談は、あしたの獅子法律事務所へ